固定残業手当とみなし残業手当の違い・適正な使い分け法

固定残業手当とみなし残業手当の違い・適正な使い分け法 ルール作り

ある会社からの質問です。

今はフレックスタイム制を導入しています。月30時間分のみなし残業として固定残業手当を渡し切りにしていますが、法的には大丈夫でしょうか。なぜなら、正直いって労働時間管理をしていないので、実際の残業時間が月30時間超えたかどうか確認できていないのです…

何となく問題があるような気がするのですが、正直いってどうしたらよいか分からないです。

  • みなし残業に対する手当
  • 固定残業手当

は似ているようで違います。

この記事ではつぎの3点について、できるだけわかりやすく解説します。

  • みなし残業と固定残業の違い
  • みなし残業と固定残業を同一視することの法的リスク
  • みなし残業・固定残業それぞれの適正な使い分け法
著者プロフィール
林 利恵
林 利恵
Rie HAYASHI, MPH, PhD

博士(医学)
特定社会保険労務士
ISO30414 リードコンサルタント/アセッサー

東豊社労士事務所 代表
株式会社東豊経営 代表取締役

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みなし残業と固定残業の違い

法定労働時間(1日8時間、原則として週40時間)を超えた労働時間については、法定の割増賃金を支払わなければなりません。一方で、労働時間集計や賃金計算の簡便さ等の理由から、一定時間分の法定の割増賃金として、「みなし残業手当」「固定残業手当」の名目で支払うことは、両者で共通しています。

例えば、月30時間分の法定割増賃金として、月額76,500円の手当を支給したとしましょう。

「みなし残業手当」「固定残業手当」のいずれも、残業時間が月30時間未満でも、たとえ残業時間がゼロでも月額76,500円の手当が支払われます。

残業時間が月30時間を超えた場合、「みなし残業手当」の場合は手当を超える金額は支払われませんが、一方で「固定残業手当」の場合は手当を超える金額は支払わなければなりません。「固定残業手当」を支払う場合は、結局のところ労働時間を正確に把握して割増賃金の計算をしなければなりません。

では、「固定残業手当」を「みなし残業手当」にすればよいですか?

簡単にそういう訳にはいきません。なぜなら、みなし残業手当の支給対象者は、みなし労働時間制が適用される労働者に限られます。

  • 事業場外みなし労働時間制(労働基準法 第38条の2)
  • 専門業務型裁量労働制(労働基準法 第38条の3)
  • 企画業務型裁量労働制(労働基準法 第38条の4)

なお、労働時間等に関する規定の適用が除外されている次の労働者についても、管理職手当等の名目でみなし労働時間に相当する手当を支払う場合があります。

  • 管理監督者など(労働基準法 第41条)
  • 高度プロフェッショナル制度(労働基準法 第41条の2)

<マニアックな解説>

労働時間等の適用除外者にみなし残業手当を支払うときのポイントは、手当の①本来の定義(管理職であれば職責等に応じた手当)と②万一適用除外が認められなかったときの予備的な定義(もし労働基準法第41条又は第41条の2が適用されなくても子の手当は月〇時間分の割増賃金に相当する手当)のような内容を就業規則に定めておくことです。

みなし残業と固定残業を同一視することの法的リスク

最初の質問(フレックスタイム制で月30時間分のみなし残業手当のみ渡し切りで支給しても法的に大丈夫?)に対する回答です。

「フレックスタイム制」はみなし労働が認められていませんので「みなし残業手当」を使うことはできません!「固定残業手当」の導入は可能ですが、労働時間を把握して固定残業時間分を超えた賃金を支払わなければなりません。(未払い賃金に関する行政処分や訴訟のリスクがあります)

では、「みなし残業手当」の対象になる労働者の労働時間は把握しなくても構わないのでしょうか?

答えはNGです。

長時間労働による健康リスクが高い労働者を見逃さないために、事業者には労働安全衛生法で高度プロフェッショナル制度対象労働者を除く全ての労働者の労働時間を把握する義務が課せられています。

労働安全衛生法 第66条の8の3 事業者は、第66条の8第1項又は前条第1項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第1項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。

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みなし残業・固定残業それぞれの適正な使い分け法

みなし残業手当を支払う場合

これらは「労使協定」または「労使委員会決議」によりみなし労働時間を決めて労働基準監督署に届け出ます(なお、法定労働時間内の事業場外みなし労働時間制は届出不要です)。

各届の様式では、1日あたりの「協定(または決議)で定める労働時間」でみなし労働時間を定めます。

それでは、もし所定休日に労働した場合には別途割増賃金を支払わなければならないのでしょうか?

労使(又は労使委員会)での協議で、ひと月あたりのみなし労働時間を決めて、みなし労働時間に所定休日の労働を含めるかどうかも決めることができます。

  • 労使協定(又は労使委員会決議)により、みなし労働の対象に所定休日を含まなければ別途割増賃金が必要です。
  • 一方で、労使協定(又は労使委員会決議)により、みなし労働の対象に所定休日を含めれば別途割増賃金は不要です。

ただし、法定休日と深夜労働についてはみなし労働にすることができません。

固定残業手当を支払う場合

  • 通常の労働時間制(労働基準法 第32条)
  • 1か月単位の変形労働時間制(労働基準法 第32条の2)
  • フレックスタイム制(労働基準法 第32条の3)
  • 1週間単位の変形労働時間制(労働基準法 第32条の4)
  • 1年単位の変形労働時間制(労働基準法 第32条の5)

上記の通常の労働時間制と4つの変形労働時間制では「みなし労働」は認められていません。労働時間を適正に把握し、固定残業時間分を超えた賃金を支払わなければなりません。

所定休日の割増賃金も固定残業手当から充当できますか?みなし労働ではできない法定休日や深夜労働ではどうなりますか?

固定残業手当に関するルールは就業規則(賃金規程)に定めます。

固定残業手当を時間基準で決めるか金額基準で決めるか、定め方がポイントです。

  • 【時間基準】固定残業手当が「月〇時間の時間外労働に対する手当」であれば、月〇時間を超えた時間外労働のほか、休日労働・深夜労働に相当する賃金を支払わなければなりません。
  • 【金額基準】一方で、固定残業手当は「時間外労働・休日労働・深夜労働に対する手当で、月〇時間の時間外労働に相当する金額とする」であれば、「月の時間外労働・休日労働・深夜労働に対する割増賃金の合計額」が「固定残業手当の金額」を超えた場合に差額を支払わなければなりません。固定残業手当の定義を就業規則に定めます。

もし、時間外労働は少ないけれど、休日・深夜労働が多い場合には【時間基準】の定義で運用すると「もしかして固定残業手当は適切ではないかも?」しれません。

固定残業手当の日割り計算については別に解説しています。

むすび

この記事では、固定残業手当とみなし残業手当の違い・適正な使い分け法について解説しました。

みなし残業手当は渡し切りの手当ですので、対象者はかなり限られます。一般的にはみなし残業手当ではなく固定残業手当を使うことが多いでしょう。固定残業手当であっても労働時間を適正に把握して計算した賃金を支払わなければなりません。固定残業手当を超えた分の差額支払いについては、時間よりも金額ベースで考える方が正確に計算できると思います。

参考になりましたら幸いです。

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