賞与や昇格などにかかわる人事評価で、勤怠を評価するために出勤率を用いることがあると思います。
出勤率 = 出勤日 ÷ 全労働日
年次有給休暇の算定における出勤率の計算は法令により定められていますが、人事評価の算定における出勤率の計算方法は、就業規則や人事制度などの社内規程により定めます。
この記事では、人事評価のうち、勤怠を評価するために算定する出勤率を中心に、出勤とみなす場合、算定対象期間から除外する場合について解説します。
出勤率を人事評価の算定に用いる目的とは?
当社では出勤率は勤怠を評価するために用いています。
勤怠を評価する目的でしたら、年次有給休暇の発生要件の出勤率の考え方が参考になります。
下記の行政通達(平成25年7月10日基発0710第3号)をごらんください。
(略)
第1 法第39条関係<出勤率の基礎となる全労働日>を次のように改める。
<出勤率の基礎となる全労働日>
年次有給休暇の請求権の発生について、法第三十九条が全労働日の八割出勤を条件としているのは、労働者の勤怠の状況を勘案して、特に出勤率の低い者を除外する立法趣旨であることから、全労働日の取扱いについては、次のとおりとする。
(以下略)
年次有給休暇の算定における出勤率は次の式で求めます。
出勤率 = 出勤日 ÷ 全労働日
全労働日(=所定労働日)から除く日
- 所定休日(所定休日に労働した日を含む)
- 使用者の責めに帰すべき事由による休業
- 正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日
- 不可抗力による休業
- 代替休暇として休んだ日
出勤日に含む日
- 所定労働日に出勤した日(遅刻や早退など一部でも出勤した日を含む)
- 労災による休業期間
- 育児休業の期間
- 介護休業の期間
- 年次有給休暇として休んだ期間
- 労働者の責に帰すべき事由によるとは言えない不就労日(平成25年7月10日基発0710第3号)
下記の記事で詳しく解説していますので、併せてご覧ください。
全労働日から除く日は、人事評価における出勤率に使うことは妥当かと考えますが、出勤日に含む日についても、年次有給休暇の算定における考え方の通りにしなければならないのですか?
必ずしも年次有給休暇の算定における考え方の通りにする必要はありませんが、いくつか注意点があります。順番に解説します。
全労働日とは?
全労働日とは、シンプルに「所定労働日数」のことです。労働契約により労働義務のあるすべての日をいいます。
人事評価の算定においても、全労働日の定義は、年次有給休暇の算定と同様でよろしいのではないかと考えます。
出勤日とは?
出勤日とは、所定労働日に出勤した日です。
欠勤や私傷病休職など、労働者の責めに帰すべき休業の日は当然に出勤日に含めません。
遅刻や早退などの日も出勤日になるようですが、不完全な労務提供をしている労働者の勤怠評価を出勤率に反映することはできないでしょうか?
勤怠を評価するのですから、欠勤だけではなく、不就労時間も評価対象になり得ます。
就業規則や人事制度等の社内規程に定めて労働者に周知することが前提ですが…
例えば「人事評価において、遅刻、早退または私用外出2回で1日欠勤扱いとして出勤率を算定する」ことは可能だと考えます。
各種の休暇・休業を、全労働日から控除するか?出勤日に含めるか?
出勤率の計算上、「全労働日から除く」よりも「出勤日に含める」ほうが、労働者に有利な条件になります。
詳しくは、過去記事「年次有給休暇の出勤率の算定!休業した日でも出勤日にする場合と全労働日から除外する場合を解説!」をご参照ください。
労働者の勤怠を評価することが目的ですので、不就労を次の3つに分類して考えました。
- 出勤日に含めない日
- 出勤日とみなす日
- 全労働日から控除する日
出勤日に含めない日
欠勤(遅刻、早退、私用外出)、私傷病休職、病気休暇などが「出勤日に含めない日」に該当します。
これらは、労働義務のある日にもかかわらず、労働者の責に帰すべき事由による不就労です。
一般的に、頻繁な欠勤、遅刻、早退、私用外出が懲戒処分の対象になります。
また、私傷病休職や病気休暇などは、解雇猶予としての制度です。
たとえ、就業規則の手続きに従って届出したとしても、出勤率の算定において、全労働日から控除せず、出勤日に含めないことは妥当だと考えます。
出勤日とみなす日
年次有給休暇
労働基準法 第136条に基づき、年次有給休暇を取得したことによる不利益取扱いは許されません。
第百三十六条 使用者は、第三十九条第一項から第四項までの規定による有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。
出所 労働基準法 e-Gov法令検索
また、厚生労働省Webサイトの「よくある質問」でも、人事評価における不利益取扱いをしてはならないことが示されています。
出所 厚生労働省ウェブサイト
Q私の会社では有給休暇を取得すると賞与の査定にあたってマイナスに評価されてしまいます。会社は有休を取得しなかっただけ多く働いたのだから当然と言っていますが、これは法律上問題ないのでしょうか。 A労働基準法に定められた年次有給休暇の取得に対する不利益取扱いの禁止について、労働基準法附則第136条は、使用者は年次有給休暇を取得した労働者に対して、賃金の減額その他不利益な取扱いをしないようにしなければならないということを規定しています。年次有給休暇の取得を賞与査定のマイナス要素として扱うことはこの規定に抵触することになりますので許されません。
年次有給休暇を人事評価おける出勤率の算定において、全労働日から控除する日にすればよいのではないでしょうか?
もし、年次有給休暇を「全労働日から控除する日」にしますと、出勤率の算定において「出勤日とみなす日」よりも労働者に不利益な取扱いになります。
「出勤日とみなす日」よりもマイナス要素があることはリスクがあると考えますので、年次有給休暇は人事評価の出勤率算定において、出勤日とみなすことを推奨します。
解雇無効等の判断がなされた場合の解雇日から復職日までの不就労日
解雇無効等の判断がなされた場合、解雇日から復職日までの不就労日が「出勤日とみなす日」に該当します。
ただし、不可抗力による休業・使用者側に起因する経営管理上の休業・正当な労働争議による不就労日と重なるときは「全労働日から除外する日」として扱います。
いわゆる解雇無効の判決がされますと、解雇日から復職日までの不就労日について、本来解雇されていなかったら得られていたはずの賃金の支払い(いわゆるバックペイ)を命じられます。このような場合は、おそらく人事評価における出勤率においても、出勤日とみなすことになるでしょう。
全労働日から控除する日
- 業務上の負傷又は疾病による療養のための休業
- 産前産後休業
- 育児休業
- 介護休業
- 子の看護休暇
- 介護休暇
- 育児目的休暇
- 裁判員休暇
- 公民権行使のための休暇
- 妊娠中及び出産後の健康管理に関する措置による休業
- 慶弔休暇
- 病気休暇
- リフレッシュ休暇
- 教育訓練休暇 など
法令や社内制度により権利として認められ、正当な手続きにより労働義務を免除された日が「全労働日から控除する日」に該当します。
所定労働日から労働義務を免除した日を除いた労働日に対する出勤率で勤怠評価する(欠勤・遅刻・早退・私用外出などは無いか?)という考え方です。
逆に言いますと、これらの休暇・休業は法令や社内制度により権利として認められ、正当な手続きにより労働義務を免除された日ですので、不就労日について人事評価をしない、といえます。
支給金額の算定について
これまで、勤怠評価のための出勤率の考え方を解説しました。
支給金額の算定については、上記の「出勤日とみなす日」の事例以外、実労働日数に応じて按分する定めにする考え方があります。
例えば、育児・介護休業法に定める各制度の利用申し出や取得等を理由とした不利益取扱いが禁止されており、本記事に関連する事例として、両立支援のひろば(厚生労働省)において、「賞与等において不利益な算定を行うこと」が挙げられています。
ただし、「育児・介護休業等に関する規則の規定例」(厚生労働省)より、休業等により労務を提供しなかった期間を「働かなかったもの」として取り扱うことは不利益な取扱いに該当しない、ということです。
賃金、退職金又は賞与の算定に当たり、休業等により労務を提供しなかった期間を働かなかったものとして取り扱うこと(※)は不利益な取扱いに該当しません。
※ 育児・介護休業や子の看護休暇・介護休暇を取得した日、時間を無給とすること、所定労働時間の短縮措置により短縮された時間分を減給すること、退職金や賞与の算定に当たり現に勤務した日数を考慮する場合に休業をした期間を日割りで算定対象期間から控除すること、などがこれに当たります。
一方、休業等により労務を提供しなかった期間を超えて働かなかったものとして取り扱うことは、不利益取扱いとして禁止されています(法第10条、第16条、第16条の4、第16条の7、第16条の10、第18条の2、第20条の2及び第23条の2)。
出所 「育児・介護休業等に関する規則の規定例」(厚生労働省)
よって、例えば育児休業や労災による休業など、先ほどの「全労働日から控除する日」がある場合の人事評価の算定については次の流れで算出することも一案だと考えます。
- 全労働日から「全労働日から控除する日」を控除した日について勤怠評価(出勤率評価)、業績評価等の人事評価を行います。
- 1.での評価において全期間出勤していた場合の満額を全労働日数で除した日割りの金額に実労働日数を乗じて算出します。
まとめ
賞与や昇格などの人事評価において、勤怠評価の指標として出勤率を用いる場合があります。
一方で、法的に不利益取扱いを禁止されている休暇・休業がありますので、一律的に不就労日すべてを勤怠評価に置いて欠勤扱いとすることは適切ではありません。
今回の記事では、多様な不就労日について、勤怠評価を行う指標としての出勤率を算定する際に、
- 出勤日に含めない日
- 出勤日とみなす日
- 全労働日から控除する日
に分類して、どの休暇・休業が当てはまるかについて解説しました。
さらに、賞与や退職金等の支給金額の算定において実労働日数が考慮される場合においては、実労働日数に対応する部分を日割計算して支給することは差支えありません。
勤怠評価を行う指標としての出勤率をメインに執筆しましたが、人事評価における出勤率は、
- 勤怠評価としての出勤率
- 労働時間で案分した支給額算定のための出勤率
に分けて考える必要があると感じました。
人事制度、賃金制度、退職金制度などを設計する際には、不就労日・期間がある場合のルールを作っておくことが大切です。この記事が参考になりますと幸いです。